東京高等裁判所 昭和42年(う)101号 判決
被告人 崔武甲
〔抄 録〕
所論は先ず、原判示第一事実について、原判決には審判の請求を受けた事件について判決をせず、審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるといい、その理由として、原判決は原判示第一事実として「被告人は―昭和二十八年三月頃再び韓国から船で福岡県博多港に上陸しひきつづき本邦各地に在住しているものであるが、外国人が本邦に入つたときは、その上陸の日から六十日以内に……外国人登録の申請義務があるにもかかわらず、右申請手続をすれば自己がかつて強制送還されたことがわかり、再び強制送還されることあるをおそれて、昭和四十一年六月一日まで右申請をすることなく、東京都渋谷区本町四丁目五十番地等に居住し、もつて本邦に在留したものである。」として、被告人を外国人登録法違反で有罪と認定した。ところで、本件起訴状においては、右事実の訴因は「被告人は韓国人であるところ、昭和二十八年三月頃より船で福岡県博多に上陸したものであるから、その日から六十日以内に居住地所轄の市町村の長に対し、外国人登録の申請をしなければならないのに、これを怠り、昭和四十一年六月一日まで申請せず東京都渋谷区本町四丁目五十番地等に居住しもつて本邦に在留したものである。」として記載されていたが、検察官は、昭和四十一年十一月二十九日付訴因変更請求書により、右訴因を「被告人は―昭和二十五年朝鮮元山より不法に本邦に入国などして、そのために身体の拘束をうけ、昭和二十六年一月五日懲役刑の判決確定し、その刑の執行をうけるなどしていたが、昭和二十八年三月頃より外国人登録申請をする自由を回復したものであるから、その日から六十日以内に……居住地所轄の市町村の長に対し、外国人登録の申請をしなければならないのに、これを怠り、昭和四十一年六月一日まで申請せず東京都渋谷区本町四丁目五十番地に居住し、もつて本邦に在留したものである。」と変更したのであるから、原判決としては当然変更後の訴因に基いて判決をなすべきであるのに拘らず、これについては判決をせず、前記のとおり変更前の訴因と同一の犯罪事実を認定し被告人に有罪の言渡をしたのは、刑事訴訟法第三百七十八条第三号に違反する違法があるといわなければならないというのである。
よつて按ずるに、右両訴因の基本的事実関係は同一であるが、記録により原審の訴訟の経過を検討すると、変更後の訴因は変更前の訴因の事実関係を排斥し、被告人が確定判決の原因となつた昭和二十五年五月の不法入国に基づき、外国人登録申請の義務を負うものであるということに立脚する点において、訴因を異にするものであると認むべきに拘らず、原判決は変更後の訴因を問題とせず、変更前の訴因に副う有罪判決を認定したと認められるのであるから、正に審判の請求を受けた事件について判決をせず、却つて審判の請求を受けない事件について判決をした違法があるものというべきである。よつて論旨は理由があるものといわなければならない。
(久永 井波 四ツ谷)